樹木医診断 ヤドリギ

昨日は樹木医診断に参加してきました。
内容は、木にヤドリギがたくさん付いているがどうしたものか、ということです。

ヤドリギとは簡単に説明すると、他の木に引っ付いて、その木から水分(養分もと書いてある文献もある)をもらい、光合成は自分の葉で行っている、普通の木とは異なりとても変わった方法で生きている木です。
半寄生木とも言われます。

よく見られるのが、ケヤキやエノキ、まれにサクラや、今回はクスノキでも見られました。
常緑樹なので、落葉樹のケヤキやエノキについていると、冬きれいな球形の姿がとても目立ちます。

どうやって木に引っ付くかというと、自分で木には登れないので、鳥の力を借ります。
鳥に実を食べてもらい、実の中の種はねばねばしたものを身にまとったままフンとして排出されて、ちょうどよい枝に落ちれば成功です。
このように他者のおかげで成り立つことを共生関係と言います。

2013-6-20 ヤドリギとエノキ 1

2013-6-20 ヤドリギとエノキ 2

ヤドリギは敷地内のエノキ5本とクスノキ1本に、多い木で70株(ヤドリギの数え方は難しく、一つの球形の中にいくつもの個体がいるので、群集とか株といった感じです)ほどもいました。

さほど広くない敷地内の木にこれだけヤドリギがいるのは珍しく、色々な状態や、木を切って内部を見ることもできたので、大変勉強になりました。

2013-6-20 若いヤドリギ

2013-6-20 樹皮に貼りついたヤドリギの種

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さて診断についてですが、今回メインの担当ではないですしここでは差し控えますが、ちょっと思ったことを書いておきたいと思います。


ヤドリギをどうすればよいか、というのは結局は「すべてのバランスの重心をどこに置いたらよいのか」、を決めることになると思います。

どういうことかと言うと、今回はヤドリギと、本体のエノキ、実を食べて運ぶ鳥、そして人が関わっています。
人は樹木や土地の持ち主、管理する人、周りの住人、樹木が好きな人、鳥が好きな人と、色々な立場、思いのある人がいます。

一つのものや、一人の人についてだけ考えればよいのであれば、対処はそれほど悩むことはありません。
でもすべてのもの、色々な人について考慮しなければいけない場合、すべてが満足する100満点の方法はありません。
あちらを立てればこちらが立たず、となることはある程度仕方ないので、譲れないところと譲らなければならないところが出てきます。
それを決めるためには、まずどれをどれくらい重視するか、ということを全体のバランスを見ながら、定めることです。
バランスを見て落としどころを定める、とも言えます。

バランスの重心はエノキに寄せることになると思いますが、どれくらい寄せるのか、ということです。


ヤドリギはエノキと鳥がいなければ生きていけません。
エノキは本当は誰も必要としませんが、周囲が住宅地のため人の行為の影響をものすごく受けます。
鳥、この場合はレンジャクという姿の良い渡り鳥で、ヤドリギがいなければ食べ物が無くなり、この場所には来なくなります。

ヤドリギがエノキに与える影響も、ヤドリギがあるとエノキが枯れるというような極端なものではなく、少し水分(場合によっては養分)を取られる、ヤドリギの根という異物により枝が肥大する、ヤドリギの葉で日照が変わるなど、どのぐらい悪いというのが場合(位置関係や大きさなど)によって変わり、一言では言えないですし、数値的な量で簡単に表すことも出来ないです。
もちろんヤドリギの数によっても変わりますし、付く場所によっても違ってきます。
さらにエノキ本体の樹勢(元気度)によっても変わります。
元気だったら影響は無いと言えるくらいのものだし、弱っていたらダメージは少々あると言えます。

つまりヤドリギをどうするか、だけではなく、木が元気になる管理や処置のことも考える必要があります。


最後に人の思い・思惑です。

エノキを大切に思う人、百年二百年生きている大きな樹木を残したいと思う人は、別にヤドリギは無くてもいいと思うかもしれません。

でもヤドリギは、西洋では多産を願う樹の神だったり、クリスマスにはヤドリギを飾ったり、日本でも万葉集に「山の木にあるヤドリギを髪に飾って長寿を祈る」という内容の歌があるように長寿を祝う樹でもあります。
そのような価値があって、姿もおもしろいし、残したいという人ももちろんいます。

鳥が好きで、レンジャクのような美しく、年間で一時期しか見られない渡り鳥を、遠くから来てでも見たいという人は餌になるヤドリギは残してもらいたいと思うでしょう。
餌を食べられる場所がどんどん減っていったら、日本に渡ってこられなくなるかも知れない、とも考えるでしょう。

これらの色々な人の思いのバランスもとらなければなりません。


また、お金を出す人にとっては、費用対効果のバランスも重要です。

対策も、ヤドリギを取り除くには、エノキ本体の枝ごと切らなければならないので、どのくらい切ったらどのような状態になるかというバランスも取らなければなりません。


どうするかを決めるには、これらすべてのバランスを見て決めるということになり、これは広い視野・色々な角度でそれぞれを客観的に見ることが必要になります。
それぞれの立場では、自分のことしか考えられないでしょうから、総合的な立場で見ることができる人が必ず必要となります。
樹木医とはそのような能力も必要とされる、難しい仕事です。


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他にも今回ヤドリギを見て色々なことを感じたり、思ったりしました。

・すぐ隣にムクノキもあったのに、ヤドリギは全く付いていない。エノキ・ケヤキと同じニレ科なので付きそうなものだけど何故?
・他の木と一体化してしまうところは、継ぎ木と似ている
・最初種が付いたところには外樹皮があり、木の生長とともに剥がれていってしまうのに、そこをどうやって乗り越えるのだろう?
・一度付いたヤドリギを取り除くには、木の本体の枝ごと切るしかないのか?

いくら色々なことを知ってもまだまだ興味深いこと、不思議なことはたくさんです。